冷たい上司の温め方
「毎週火曜に必ず行く飲み屋がある」
楠さんは隣に立っていた私から資料を奪うと、飲み屋の地図を出した。
「今日、ですね」
「あぁ。最初は様子見だ。
親しくなったら仕事の話にそれとなく触れて、怪しまれないように証拠をつかめ」
そんなにうまくできる自信はない。
だけど、やるしかない。
「なにかあればすぐに俺に連絡しろ。いいな」
楠さんはメガネに触れると立ち上がった。
その日はなんだかソワソワしながら仕事を終えた。
そして、十八時を過ぎたころ、席を立った。
「お先に失礼します」
「麻田」
帰ろうとする私を引き留めたのは楠さんだ。
「俺も帰る」
それは、一緒に行くという意味なのだろう。
私は小さくうなずいて、楠さんと一緒に会社をあとにした。