冷たい上司の温め方
常務御用達の飲み屋は、会社から三十分ほど電車に揺られた場所にあった。
普段は乗らない路線は、思っていたよりすいていた。
一緒に来た楠さんは、しきりにメガネに触れている。
「麻田」
「大丈夫です」
「うまくやります」とはとても言えない。
だけど、おそらく相当心配している彼を安心させたかった。
飲み屋は、上品な小料理屋という感じだった。
おそらく、こんなことでもなければ、縁のなさそうなところだ。
「私……不自然じゃないですか?」
「不自然だな」
「失礼です」
だけど少し緊張が緩んだ。
「安心しろ。ここはそれほど高い店じゃない。
お前みたいなOLがふらっと立ち寄ることもあるようだ」
そんなことまで、調べてあるんだ。
「あれ……」
小料理屋を観察していると、黒い大きな車が停まった。