冷たい上司の温め方

「来たな」

「運転手つき?」

「秘書の竹中だ」


秘書と一緒に来るとは思ってもいなかった私は、体を硬くした。
資料を読むと、秘書はなかなかのやり手のように思えたんだけど……。


「竹中はおそらく常務とグルだ。
というか、竹中が主導権を握って情報漏えいをしている。
だが、竹中は口を割らなさそうだ」

「だから、常務なんですね」


楠さんはうなずいた。

後部座席のドアを開けた秘書は、確かにスキがなさそうな鋭い眼光をしている。


そして秘書はそのまま車で走り去った。
送ってきただけのようだ。


「行ってきます」


私が一歩踏み出すと、突然腕をつかまれた。


「麻田」


楠さんが険しい顔をしている。
もしかしたら、私にこんなことをさせることに、ためらいがあるのかもしれない。

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