冷たい上司の温め方

「私、許せないんです。
よくないことをしているのに、素知らぬ顔をして上に立っているなんて」


楠さんは、私の腕を離した。

楠さんは、正義感の強い人だ。
今まで一緒に仕事をしてきて、それがわかった。

そして、そういう気持ちは私も同じ。
権力の傘に隠れ、平然と会社を裏切っているなんて、許せない。

私は意を決して、小料理屋に入った。


「いらっしゃいませ」


私を出迎えてくれたのは、少し白髪交じりの板長さん。


「あの……初めてなんですが、よろしいですか?」

「もちろんです。お好きなところにどうぞ」


常務はカウンター席の真ん中あたりに座って、日本酒を飲んでいた。

私はさりげなく、常務の近くの席に座ると、お品書きに目をやった。

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