冷たい上司の温め方
“時価”と書かれているものは、怖い。
楠さんから、後で支払うとは言われているものの、お財布の中にはそんなに余裕がない。
「板長。今晩は彼女の食事は私のおごりだ」
「いえ、そんな……」
「せっかく美人さんに会えたんだ。遠慮しないで」
これまたラッキーな展開だ。
これで親し気に話しかけても問題なさそうだ。
「すみません。お言葉に甘えても?」
「もちろんだよ」
常務の笑顔が少々気持ち悪かったのは、この際我慢して……。
「ありがとうございます。お注ぎします」
私はひとつ席を移って常務の隣に座り、お酌をした。
「おぉ、ありがたいね」
ひどくご機嫌な常務は、ぐいっとお酒を飲みほした。
酔わせてしゃべらせる、か。
私はどんどんお酌をした。