冷たい上司の温め方
もっと聞き出したかったけど……常務の手が上がって来たから、さりげなくガードして立ち上がった。
「すみません、そろそろ帰ります」
「なんだ。これからなのに」
なにがこれからなの!
「楽しかったです。ごちそうさまでした」
引きつった笑顔で板長にも頭を下げると、常務は「またおいで」と私に告げた。
なんとか逃げ出したものの、常務の手の感触を思い出して、吐きそうだ。
「あのハゲオヤジ、調子に乗って!」
楠さんが心配しているかもしれない。
駅までの道を歩きながら、スマホを取りだした。
「麻田」
「えっ?」
アドレス帳を表示していると、突然後ろから呼び止められる。
「楠さん! もしかしてずっといたんですか?」
「あぁ。部下が仕事をしてるんだから、当然だ」