冷たい上司の温め方
「常務の女癖が悪いことは、楠さんだって知ってるはずです」
「えっ?」
思わず声が出た。
それじゃあ、膝を触られたのだって想定内だったということ?
「あぁ」
楠さんはメガネのフレームを直すと、笹川さんを真っ直ぐに見つめた。
「麻田さん、なにもなかったの?」
「えっ……えぇ」
「はい」とはっきり言うべきだったかもしれない。
だけど、言えずにうつむいた。
「常務は前の会社で何人もセクハラしてたんだ。
だけど、重役だった常務に誰もなにも言えず、女子社員が数人辞めている。
それを、楠さんにも報告したはずです」
笹川さんは、楠さんに詰め寄る。
「麻田さん、触られたりも、しなかった?」
「あの……それは……」
「触られたんだね」
それ以上、言葉が出てこない。
楠さんにも報告していないから。
だけど、触られたと確信した笹川さんは、ますます怒りを露わにする。