冷たい上司の温め方
「楠さん、仕事の域を超えています!」
笹川さんに責められている楠さんはなにも言わない。
私はショックを受けていた。
楠さんが、常務がそういう可能性のある人だと知っていて、私を送り込んだなんて。
「なんとか言ってください!」
笹川さんがさらに声を荒げ、顔を赤くする。
「情報をつかむためだ」
「あんた、本気で?」
笹川さんの言葉遣いが変わった。
上司への苦言ではなくなったのだ。
「好きな女を他の男の餌に差し出すなんて、どうかしてる。最低だ」
好きな?
「誰が麻田のことを好きと言ったんだ」
なにを、言っているの?
ふたりの会話を呆然として聞いていることしかできない。
「あんなに彼女のことを気遣っていたくせに、違うとは言わせない」
「好きなのは、お前だろう?」
どんどん論点がずれていく。