冷たい上司の温め方
「そうですよ。俺は麻田さんが好きです。
楠さんが違うというなら、遠慮はしません」
私は膝の上で手を握りしめた。
ふたりとも私のことを話しているのに、私はまったく蚊帳の外だ。
告白までされているのに。
「構わない。好きにしろ」
えっ?
楠さんの『好きにしろ』という言葉に激しいショックを受ける。
それは、どうしてなの?
なんなのよ……。
私は悲しくなって、会議室を飛び出した。
「麻田」という楠さんの声が聞こえた気がしたけど、振り向くこともせず。
泣きそうだった。
楠さんが常務が危険だと知りながら、私を送り込んだという事実と、それに、もうひとつ……。
そのまま人事に戻ることもできずに、私は地下へと走り込んだ。
もう頼れる人は遠藤さんしかいない。