冷たい上司の温め方
「でもね、とある不正を内部告発したのよ」
「えっ?」
内部告発?
「今の楠君と同じで、正義感溢れる人だった。
そのまま黙っておけば、さらなる出世だって約束されていたのに、どうしても不正を見逃せなかった」
遠藤さんの口から飛び出した事実に驚いた私は、なにも言えなくなった。
「当時ヒットしていたビデオデッキに、不良の部品を使ったものが数多く混ざっていることがわかったんだけど、元々メーカー保証は一年だから、一年もてばいいと公表しなかったの」
大きな溜息をついた遠藤さんは、当時のことを思い出しているのか、苦しそうな表情だ。
「だけど、一年ももたずに修理に持ち込まれるものが続出して、明らかにリコールの対象商品だった。
でも、会社の信頼が揺らぐと、購入後一年以内の商品だけ無償で修理して、あとは隠し続けていた」