冷たい上司の温め方
私はちょっとおどけて言った。
楠さんが常務を許せないという気持ちがわからないではないからだ。
だけど、私の軽いノリとは違い、楠さんは眉間にシワを寄せる。
「仕事の域を超えているのも、承知している」
「それでも、常務が許せなかった……ですよね」
私の発言に驚いた様子の楠さんは、ハッとした顔で私を見つめた。
「楠さん、どうして私なんか採用したんですか?」
楠さんがしたことを責めるのは簡単だ。
だけど、彼の辛かった過去に同情してしまう私は、強く責めることなんてできなくて、話を変えた。
「お人よしだったからだ」
「は?」
思わぬ返事に、間抜けな声が出てしまう。
「俺達の仕事は、一歩間違えば私利私欲で思うままに人を操ることができる。
嫌いなやつはリストラしてやればいい。ムカついたら左遷。そんなことだって可能だ。
だからこそ、三課に携わるヤツにはそれなりの人格を求める」