冷たい上司の温め方

「また遊びに来ましょうよ。今度はサンドウィッチを作りますから。中身はなにが好きですか?」


休日くらいは頭を休ませてほしい。
そんなにストレスを抱えていては、つぶれてしまう。


「そうだな。タマゴだ」

「楠さん、タマゴなんだ。やっぱり子供みたい」


クスクス笑ってみせると、不機嫌な顔を私に向けた彼は、「うるせー」とつぶやく。

だけどわかってる。
本当は目の奥が笑っていること。
ピリピリしたオーラが一瞬消えたから。


それから家まで送ってくれた楠さんは、私を降ろすと窓を開けた。


「お疲れ」

「お疲れ様です。あの……」


「無理、しないで」と言いたいのに、言えない。

そんなこと言ったところで、彼が手を抜くわけがない。
それなら、私のできる範囲で手伝うしかない。


「タマゴ、期待してる」

「えっ?」

「それじゃ」


私が返事をする前に、彼は窓を閉め、走り去ってしまった。

相変わらず冷たいオトコだ。
だけど……ちょっとだけ素顔を見せてくれたようで、うれしかった。

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