冷たい上司の温め方
「麻田さん、飲みに行かない?」
金曜の帰り、笹川さんに誘われた私は、すぐに返事ができなかった。
すぐ横にいる楠さんが気になったからだ。
「あの……」
笹川さんの私限定な誘い方に困った私は、チラッと楠さんを見てしまった。
「ふたりで話したいんだ。いいだろ?」
すると笹川さんは益々露骨に楠さんを遠ざけた。
「それじゃ、お先だ」
楠さんはデスクの上に山積みになっていた書類の一部をバッグに突っ込むと、席を立った。
本当はもう少し残業するつもりだったのだろう。
でも、笹川さんに気を使ったのだ。
私が楠さんを残して、飲みになんて行けないから。
楠さんが帰り、断る理由がなくなってしまった私は、笹川さんと一緒に会社を出た。