冷たい上司の温め方

「まったくそそっかしい。
お前のために用意した救急箱みたいになってるじゃないか」

「すみません」


楠さんの言う通り、その中のもので使われた形跡があるのは消毒と絆創膏だけだ。
でも、私が買ってきた解熱剤はちゃんと入っていた。


「男の人がこんなの持ってるなんて珍しいですね」

「なんだ女々しいとでも言いたいのか」

「いえっ。決してそんなことは」


神経質な彼らしいと思っただけだ。
そんなこと、口が裂けても言えないけど。


「お袋が無理やり置いていったんだ」


それを聞いて、少し安心した。
辛い過去を持っていても、お母さんには愛されていたのだとわかったから。


「いたっ」


相変わらず乱暴に消毒を傷にかけた楠さんは、傷口をガーゼで思いっきり拭いた。
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