冷たい上司の温め方

「ちょっと、もう少し優しくしてくださいよ」

「なんでお前に」


もう!
本当は優しいくせして。


「ほら、できたぞ」


最後に絆創膏を貼ってくれた彼は、私をじっと見つめた。


「それで?」

「あっ……」


ここに来た理由を忘れていた。


「これを……」


多分……転んだ時にひっくり返してしまったから、中は大変なことになっているだろう。


「これは?」

「約束したものです。それでは失礼します」


『約束した』なんて大げさだ。
楠さんも、あれは軽い気持ちで言ったのだろう。

気まずくなって慌てて立ち上がったけれど、簡単に腕をつかまれ、再び座らせられた。


「タマゴ、か?」


観念してうなずくと、楠さんは保冷バッグのファスナーを開け、弁当箱を取り出した。

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