冷たい上司の温め方

「あ、あの……さっきひっくり返しちゃったから……」


私の制止も聞かず、ふたを開けた彼は、クスクス笑う。

笑った。
楠さんが、笑った!

チキンとアスパラの炒め物があっちこっちに飛び散っていて、残念なことになっているお弁当は、朝とは違う代物だ。


「すみません……」

「いや。ちょうど昼飯を買いに行くところだったんだ。食ってもいいか?」

「はい!」


食べてくれるんだ。
私は胸を撫で下ろした。
おせっかいだと言われたら、きっと立ち直れない。

まず、キチキチに詰めてあったおかげで、無事だったタマゴサンドを口に入れた彼は、なにも言わずに何口も食べ進む。

「おいしい」とか一言くらいないのだろうか。

だけど、彼はエビフライにも手を出した。

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