冷たい上司の温め方

「お前は食わないのか?」

「私は帰ります」

「いいから食え。こんなに食えないだろ。
それに…………ひとりよりふたりの方がうまい」


『ふたりの方が』という言葉に胸が高鳴る。

私は素直に従って、サンドウィッチに手を伸ばした。


「おいし」

「自分で作っておいて」

「だって、楠さん言ってくれないんだもん」


頬を膨らませて不貞腐れてみせると、「うまいよ」とボソッとつぶやく彼に驚く。

私、やっぱりこの人が好きかもしれない。
全然素直じゃなくて、どこか不器用な彼のことが。

だって、彼に『うまいよ』と言ってもらえるだけで、こんなにドキドキしているのだから。

黙ったまま黙々と食べ続ける楠さんは、やっぱり無表情だ。
でも、どんどん手が伸びるということは、お世辞じゃなくおいしいと思ってもいいのかな?
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