冷たい上司の温め方
がっちり腕をつかまれて動けなくなってしまった私は、うつむいて涙を我慢する。
「麻田」
どうしてそんなに優しい声で私を呼ぶの?
「楠さんのバカ」
もうこれ以上、泣かずにいられる自信がない。
彼の手を振りほどいて、部屋を出ようとした。
でも、それができなかったのは……彼に抱き寄せられたからだ。
「麻田」
「バカ……」
その気がないなら優しくしないで。
だけど、彼の腕の中があまりに温かくて、我慢していた涙が溢れだしてくる。
「麻田、俺……」
彼の鼓動が速い。
私と、同じように。
彼はそれからなにも言わなかった。
ただ、私の背中に回した手に力を込めただけだ。
抱きしめられたりしたら、勘違いするじゃない。
私の気持ちに気づいた彼の、ただの優しさなら、残酷だ。