冷たい上司の温め方

「広報の部長にこの書類を届けてくれ」

「はい」


仕事の話に決まっているのに、いちいちドキッとしてしまう自分が情けない。

結局その日は何事もなく就業時間を迎えた。
常務のこともなんの進展もなしだ。


会社を出るとすぐにスマホが鳴って驚いた。
笹川さんからだ。

出ないわけにもいかなくて、迷いながらもボタンを押した。


「もしもし」

『麻田さん、まだ会社の近くにいる?』

「……はい」

『ちょっとだけ時間をもらえないかな』


即座に「はい」と言えない。
金曜のことがあったからだ。


『ごめん。謝りたいんだ』


結局笹川さんの申し出を受け入れた。

笹川さんに言われた通り、会社の裏手にある公園で待っていると、「はぁはぁ」と息を切らせて彼はやって来た。

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