冷たい上司の温め方
「ごめん。待たせたね」
「いえ。そんなに急がなくてもよかったのに」
私の前まで来た笹川さんは、ネクタイを少し緩めて口を開いた。
「金曜は、ごめん」
彼はしばらく頭を下げたままだ。
「笹川さん、気にしてませんから。頭上げてください」
私がそう言うと、ようやく彼は顔を上げた。
「俺……焦ってた。
麻田さんも楠さんのことが好きなんだと感じたから」
「いえ、私は……」
「楠さんのことなんてなんとも思ってません」と言うべきところだろう。
だけど、言えない。
「フラれるの覚悟で告白したのに、やっぱり諦められない」
笹川さんは苦笑しながらそうつぶやいた。
どうしたら、いいのだろう。
私は自分の気持ちをはっきりと自覚してしまった。
心の中にいるのは、笹川さんではない。
私もフラれちゃったけど。