冷たい上司の温め方

おそらく楠さんは、もう常務に近づけとは言わないだろう。

だけど、あれほど優秀な楠さんと笹川さんが調べても、なかなか証拠がつかめなかったのだ。
このチャンスをものにしなければ、林常務の不正は永遠に暴かれないかもしれない。


楠さんも笹川さんも、忙しく動き回っていて、常務のことは一言も口にしなかった。



「お先に失礼します」


その日、一通りの業務を終えると、私はすぐに席を立った。
いつもはふたりが残業していると手伝うけれど、今日は別だ。

楠さんは一瞬驚いたような顔をしたものの、またいつものポーカーフェイスに戻って「お疲れ」とつぶやいた。


私はそのまま地下に向かった。
気持ちの整理をしたかったからだ。


「あら、麻田さん」

「ご無沙汰しています。最近手伝えなくてすみません」

「あら、楠君みたいなこと言うのね」

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