冷たい上司の温め方
「この間のお料理がおいしくて、また来てしまいました」

「それはありがとうございます」


板長が笑ってくれるのが救いだ。


「板長、お嬢さんにうまいものを」


少し日本酒の入っている常務は上機嫌だ。
だけど、緊張で震えそうな私は、フワンと鼻をくすぐる日本酒の匂いだけで悪酔いしそうだ。


「なにか飲むかい?」

「いえ、私は……」


やんわりと酒を断り、板長がすぐに出してくれたお通しに箸をつけた。
だけど、口がカラカラに乾いて味がわからない。

一旦箸を置くと、常務が手酌しようとしている徳利をスッと奪って、猪口に酒を注ぐ。


「やぁ、悪いね」

「いえ。この間のお話、とても興味深くて。
実は冷蔵庫も欲しいんです。最近、冷凍庫の調子が悪くて。
それにほら、省エネタイプのもたくさんありますよね」


もしかしたら急ぎすぎたかもしれないと思ったものの、話に乗ってきた。
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