冷たい上司の温め方
「出ようか?」
冷蔵庫くらいで落ちたりしないわよ!
心の中で叫びながら、このピンチをどうやって切り抜けようか考える。
「わー、この料理おいしそう」
実に不自然な切り返しだ。
だけど、他に思いつかない。
「またおごってあげるよ」
そういう問題じゃなくて!
酔いの回った常務の目が少し潤んでいる。
イケメンなら色っぽいのに、はっきり言って色気もなにもない。
「もったいないですから、ね?」
板長、助けて……。
板長にすがるように視線を送ったけど、目をそらされてしまった。
金を落としてくれる常連には、なにも言えないってこと?
オトナの世界って、ホント最低。
座敷席に数人の客がいるものの、もう出来上がっていて私達のことなんて眼中にない。