冷たい上司の温め方
「さあ、行こう」
誰が「行く」と言ったの?
他人の話を聞いて!
「板長、つけておいて」
よろけながらも立ち上がった常務は、私の腕を引いた。
想像以上に力強い。
もう無理だ。
これ以上は、危険すぎる。
そう思った瞬間……入り口の引き戸が開き……。
「その女、俺の女でね」
「ハァハァ」と息を切らせた楠さんが入ってきた。
「離してもらえませんか?」
メガネの下の眼光が鋭く光る。
怒ってるよ、ものすごーく。
「な、なに言ってんだ。
このねーちゃんが冷蔵庫を買ってくれって誘ってきたんだ」
はぁ?
呆れてものが言えないと言うのは、きっとこういうことだ。
「こいつの家の冷蔵庫は十分に機能している。料理だってうまいからな」
あれ、今褒めた?
私のところまで歩みよった楠さんは、自分よりずっと小さい常務を威圧的に見下ろすと、私の手首を引っ張って、自分の方に引き寄せた。