冷たい上司の温め方
「こいつの会計はこれで」
カウンターの上には一万円札。
私、そんなに食べてない!と言える雰囲気でもなく、そのまま楠さんに引っ張られて店を出た。
とにかく、助かった。
どう見ても怒っている楠さんは無言で歩き続け、大通りで捕まえたタクシーに私を押し込むと自分も乗ってきた。
そして、告げたのは彼のマンションの住所。
「楠さん、あの……」
「お前、自分がどんな状況だったのかわかってるのか?」
「いえ……すみま、せん」
楠さんのためにと思ってしたことだ。
だけど、こんな危ない状況に陥るなんて思ってもいなかった。
この間のように、ちょっと足を触られるのを我慢できれば、また情報が手に入ると思っていたのだ。
読みが甘い、と言うべきか。