冷たい上司の温め方

「遠藤さんに聞いて……心臓が止まるかと、思った」


耳元で声を振り絞る楠さんは、少し震えているようにも感じる。

涙が……あとからあとからこぼれてきて、止まらない。
だけど、この涙がなんの涙なのか、自分でもよくわからない。


「お前を追い詰めたのは、俺、だな」

「違います。今日私は、楠さんに命令されて行った訳じゃないでしょ? 
私も許せなかっただけです。あの人が」


林常務の不正行為が許せないのは嘘ではない。
だけど、本当は楠さんの役に立ちたい一心だった。


「わかったことを、報告します」


少し冷静になってそう言うと、彼は腕の力を緩め私を解放した。

手のひらで大雑把に涙を拭くと、“部下”の顔をする。
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