冷たい上司の温め方
「入れ」
ひとつ大きな溜息をついた楠さんは、いつものようにメガネのフレームに触れると、私をリビングに促した。
相変わらず座り心地のいいソファ。
そして殺風景な部屋。
もう来ることはないと思っていた場所は、大好きな人の匂いで満たされていた。
楠さんがそばにいる。
その安心感は私の心を緩ませた。
私の隣に座った彼は、じっと前を見据えて微動だにしない。
内緒で手柄を立てるつもりだったのに、こんなに心配をかけてしまった。
「常務は冷蔵庫の新しい機能について話していました」
私が口を開いても、彼は少しも動かない。
「庫内の在庫の数を、外出先でもスマホで確認できる方法を特許申請中だと」
私がそこまで言うと、楠さんは眉をひそめた。