冷たい上司の温め方

メガネが触れる。

緊張のあまりに身を固くすると、彼の息づかいを間近で感じる。

だけど……次の瞬間それは遠ざかり、顎に掛けられた手も離れた。


「すまない」


唖然とした。
キスされるとばかり思っていたのに。

視線を床に落とし、唇を噛みしめている楠さんは、メガネを外してテーブルに乱暴に投げた。


『すまない』って……どういう、こと?
私が頑張ったから、キスのひとつでもしてやろうと思ったのに、やっぱりできないから?


楠さんがそんなにひどい人じゃないって、頭ではわかっている。
だけど今は、そうとしか思えない。


私はなにも言わずに彼の部屋を飛び出した。
こうやって飛び出すのは、もう二回目だ。

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