冷たい上司の温め方
私はひとまず、人事に戻ることにした。
「麻田さん!」
人事に足を踏み入れた瞬間、笹川さんが私を見つけて大きな声を出した。
「は、はい。なにか?」
「ちょっと、いい?」
笹川さんは私を伴ってフロアの外に出ると、「楠さん、見かけなかった?」と小さな声で囁いた。
「いえ……」
重役室にいることを、笹川さんに言うべきかどうか悩み、言葉を濁した。
楠さんは、笹川さんを巻きこむことを望んではいない。
「どうかしたんですか?」
「あぁ、これ……。どういう意味だと思う?」
笹川さんが私に差し出したのは、一枚のメモだった。
そこには走り書きで……。
【しばらく大変かもしれないが、あとを頼めるのはお前しかいない。
笹川には本当に助けられた。ありがとう。
麻田のことも頼んだ】