冷たい上司の温め方
「まさか、楠さんひとりで告発を?」
驚く笹川さんに、遠藤さんは大きく頷いた。
「遠藤さん、私……」
「突っ走ればいいのよ」
『それがあなたの持ち味』と言ってくれた遠藤さんに頭を下げて走り出した。
「麻田さん」
追いかけてきた笹川さんに「重役室に行きます」と告げると、彼もためらいなく私と一緒に走った。
楠さんが見込んだ人だ。
来ないでと言っても来るだろう。
「あの後、常務が他にも情報を流していることをつかみました。
今度は特許まで持っていかれそうで……」
「そうなのか?」
エレベーターの中で事の成り行きを笹川さんに話すと、彼の目つきが変わった。
「やっぱり敵わないな。
あの人、かっこよすぎるよ」
笹川さんがそうつぶやいた瞬間、エレベーターは重役のフロアにたどり着いた。