冷たい上司の温め方
「思い出すな」
「なにを?」
「なにをって……」
楠さんは呆れ顔だ。
「あっ!」
そういえば……まだ出会って間もなかったころ、風邪をひいた楠さんをこうして看病したことがあったっけ。
あの頃はまだ、ツンツンしていて感じの悪い人だった。
「あの時だな。お前に惚れたの」
「えっ?」
「誰かの優しさが、こんなに温かいんだって思い出したんだ」
そんな頃から、私のことを?
だけど、その後もとっても冷たかったわよ!
「自信がなかったんだろうな。
美帆乃がもし俺のせいで不幸になったらと考えたら、前に進めなかった」
それも仕方のないことなのだろうか。
それだけ辛い経験をしてきたのだから。
だけど!
「楠さんのバカ!」
「なんだ、いきなり」