冷たい上司の温め方

いくら辛い経験をしてきたからって、笹川さんの告白の時、『好きにしろ』と言われ、どれだけ辛かったか。


「笹川のこと、か」


すぐに彼は気が付いた。


「そうよ! ホントに最低。最低、だよ……」


涙が溢れそうになって顔をそむけると、彼に両肩をつかまれて無理やり向き合わされた。

頬を冷やしていたはずのタオルは、いつの間にかテーブルに置かれている。


「すまなかった。
我ながらバカなことを言ったと思ったよ。
あんなに苦しかったのは、親父を失ったとき以来だ」


少しも視線をそらさない楠さんが、再び「すまない」と口にする。


楠さんも?
楠さんも、辛かったの?


「バ……カ……」


許したりしたくない。
だけど……そんなに真っ直ぐに見つめられると、もうどうでもよくなってしまう。
< 407 / 457 >

この作品をシェア

pagetop