冷たい上司の温め方
いくら辛い経験をしてきたからって、笹川さんの告白の時、『好きにしろ』と言われ、どれだけ辛かったか。
「笹川のこと、か」
すぐに彼は気が付いた。
「そうよ! ホントに最低。最低、だよ……」
涙が溢れそうになって顔をそむけると、彼に両肩をつかまれて無理やり向き合わされた。
頬を冷やしていたはずのタオルは、いつの間にかテーブルに置かれている。
「すまなかった。
我ながらバカなことを言ったと思ったよ。
あんなに苦しかったのは、親父を失ったとき以来だ」
少しも視線をそらさない楠さんが、再び「すまない」と口にする。
楠さんも?
楠さんも、辛かったの?
「バ……カ……」
許したりしたくない。
だけど……そんなに真っ直ぐに見つめられると、もうどうでもよくなってしまう。