冷たい上司の温め方

氷水のせいで冷たくなった手が、私の頬を包む。


「もう、泣かせない」

「……うん」


ゆっくり唇が重なると、ソファにそのまま押し倒される。


「美帆乃」

「はい」

「一緒に、暮らそう」


彼は返事を聞く前に、もう一度唇を塞ぐ。

私の意志なんて聞いてくれないのが彼らしい。
きっともう決定事項なのだ。

それでも、頬が緩む。
家族を失い、絶望していた楠さんが、私と同じ屋根の下で暮らしたいと言っている。
両親の代わり、という訳にはいかないけれど、きっと温かい家族を求めているのだろう。


「欲しい」


こんなに自分の気持ちを口にする人ではなかった。
やっと凍った心が溶けきったように感じる。

鼻と鼻が触れるくらいの距離で、じっと私を見つめて視線をそらさない。
いつも私の意見なんて聞かないくせに、私の口から言わせるつもり?

だけど、言ってなんてあげない。
あなただって、言わなければいけないことをたくさん省いてきたんだよ?
< 408 / 457 >

この作品をシェア

pagetop