冷たい上司の温め方
氷水のせいで冷たくなった手が、私の頬を包む。
「もう、泣かせない」
「……うん」
ゆっくり唇が重なると、ソファにそのまま押し倒される。
「美帆乃」
「はい」
「一緒に、暮らそう」
彼は返事を聞く前に、もう一度唇を塞ぐ。
私の意志なんて聞いてくれないのが彼らしい。
きっともう決定事項なのだ。
それでも、頬が緩む。
家族を失い、絶望していた楠さんが、私と同じ屋根の下で暮らしたいと言っている。
両親の代わり、という訳にはいかないけれど、きっと温かい家族を求めているのだろう。
「欲しい」
こんなに自分の気持ちを口にする人ではなかった。
やっと凍った心が溶けきったように感じる。
鼻と鼻が触れるくらいの距離で、じっと私を見つめて視線をそらさない。
いつも私の意見なんて聞かないくせに、私の口から言わせるつもり?
だけど、言ってなんてあげない。
あなただって、言わなければいけないことをたくさん省いてきたんだよ?