冷たい上司の温め方
正義のヒーローは負けません
朝、物音に気が付いて目を覚ますと、コーヒーの香りが漂っていた。
彼が貸してくれたぶかぶかのジャージのままキッチンに顔を出すと、コーヒーを片手に窓際に立って外を眺めている楠さんが目に入った。
ネクタイはしていないものの、シャツはきちんと着ている。
「楠さん?」
「起きたのか、おはよう」
「おはよう、ございます」
メガネを外している彼は、会社の時とは印象が違う。
「メガネは?」
「あぁ、なくても日常生活には支障はない。仕事の時だけあればいい」
そう、だったんだ。
「それに……」
テーブルにコーヒーを置いた彼は私の方にツカツカと歩み寄る。
「キスの時、邪魔だしな」
「えっ……」
優しく触れた唇は少し苦い味がした。