冷たい上司の温め方
着替えがない私は、彼の車で一旦部屋に戻り、一緒に電車に乗り込んだ。
会社の最寄りの駅に着くと、顔がこわばる。
メガネをかけた楠さんは、いつにもましてキリリとした顔をして、颯爽と歩いているのに。
「美帆乃は裏口から入れ」
「……はい」
会社の正面玄関は報道陣でいっぱいだった。
出勤したの何人もの社員がつかまってインタビューを受けている。
私を心配した楠さんの優しさに甘えよう。
彼も一緒にと思ったけれど、逃げるつもりはないらしい。
会社の裏手に回ったけれど、ここにも数人の報道陣が待ち構えていて唖然とする。
だけど……その中のひとりがツカツカと私に歩み寄ってきた。
菅原さんだ。
「僕がインタビューをするフリをします。
迷惑そうな顔をして、中に入ってください」
「えっ?」
どうしてそんなことを?