冷たい上司の温め方

「朝、楠さんから電話をいただいて、頼まれました。
あなたは嘘がつけないからと。行きますよ」


早口でそう囁いた菅原さんは、他の報道が私に近寄れないように横をがっちりガードして歩き始めた。


「ニュースはご覧になりましたか? 今回の件、ご存じで?」

「いえ……」

「社員として一言欲しいのですが」


菅原さんの言う通り、迷惑そうな顔をして見せた私は、そのまま社屋へ駆け込んだ。

助かった。
菅原さんの迫真の演技のおかげで、インタビューを受けずに済んだ。

それにしても……楠さん、こんなことまで手を回しているなんて。


裏口から無事に入ると、正面玄関の見えるところまで駆け寄った。
すごい人だ。

数人ずつ社員が入って来るものの、楠さんの姿が見えない。

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