冷たい上司の温め方
必死に目を凝らしていると……。
「あっ!」
笹川さんだ。
先に笹川さんを見つけた私は、入ってきた彼に駆け寄った。
「麻田さん」
「楠さんは? 楠さん、知りませんか?」
すがるように笹川さんを見上げると「大丈夫だよ」と笑う。
「『悪いものは悪い。ただそれだけです』だってさ。ムカつくね。かっこよすぎて」
「えっ?」
こんなに緊迫した状態なのに、頬を緩めている笹川さんに首を傾げる。
「遅刻するぞ」
「楠さん!」
メガネのフレームを直しながら現れたのは楠さんだ。
まるでなにもなかったかのように、平然とした顔をしている。
「麻田さん、行こうか。
俺達の上司は、このくらいのことでは動じないらしいね」
昨日殴り合ったはずの笹川さんだって、楠さんを前にして笑顔だなんて。