冷たい上司の温め方
「楠さん、あの……疲れて、ます?」
元々口数が多い方ではない。
どちらかというと、美帆乃の話に相づちを打っているだけのことが多い。
だけど、イライラが顔に出ていたのか、恐る恐る聞いてくる。
「いや」
「でも……」
不安げな顔で見つめられると弱い。
それでも、自分の気持ちがどうしてもコントロールできない俺は、黙ってハンバーグカレーを食べ、席を立った。
美帆乃だけだ。
俺の心をこんなにかき乱してくるヤツは。
常務のリストラの時ですら、こんなに取り乱した記憶はない。
あの後、刑事告訴ということになり、事情を聞かれたときも、動揺することもなかった。
それなのに……たったこれだけのことで?