冷たい上司の温め方
夢を絶たれ、家族までなくした俺は、絶望のあまり、人の温もりというものを忘れていた。
なにに対しても、反発心しかなかった。
だけど、あの時思い出したのだ。
誰かと時間を共有すること。誰かと心を通わせることが、これほどまでに心地よいのだということを。
「ほら、座れ」
こんなことをするのは初めてだ。
だけど、彼女への感謝の気持ちを、こんな形でしか表すことができない。
最初は驚いていた美帆乃が、ふわっとした笑顔を見せ、布団を体に巻きつけて座る。
この笑顔は、俺の癒しだ。
美帆乃の後ろに膝をつき、髪を乾かし始めると、美帆乃は「あの頃はツンツンしてて嫌な人でしたね」とクスクス笑う。
「悪かったな」
「でも、よかった。
本当はこんなに優しい人だったんですから」
『優しい』なんて言われたのは、初めてではないだろうか。