冷たい上司の温め方
ここから私の社会人人生が始まるんだ。
この口の悪い男にさえ我慢できれば、もしかしたらバラ色の人生が待っているかもしれないと、妄想が勝手に膨らむ。
楠さんだけが嫌味な男で、あとはすごくいい人かもしれない。
一流の会社だし、皆それなりにお金だって持っているはずだ。
私、その仲間入りができるんだ!
すごい。すごいじゃん、私!
あんなに履歴書を書いた甲斐があったというものだ。
『もう家に着いたか?』
「はい。今エントランスです」
『それじゃあ、もういいな。明日、忘れるな』
「わかってま……」
“ブチッ”と電話は切れた。
他人の話は最後まで聞きなさいよ。
それでも、私はウキウキしていた。
今までの貧乏生活、めげずに頑張ったから、ご褒美がやってきたのかもしれないなんて。