冷たい上司の温め方

コンコースの端で、念入りに会社の情報を読み直し、志望動機という名の見栄えのいい嘘を、ひとりでブツブツ繰り返す。


そろそろ行こうと歩き出すと、エスカレーターで立ち止まったひとりのおばあさんと遭遇した。


「あのー、どうかしましたか?」

「いやね、これ、速くてね。私の足ではひとりで乗れないんです」


そうなんだ。
私達には便利なエスカレーターも、おばあさんには難関なんだ……。


「それじゃあ、一緒に行きましょう」


そう言っておばあさんの腕を取ったけど、一歩出ただけで首を横に振る。


「ごめんなさいね。やっぱり怖いわ」


聞けば、ひとり暮らしを始めたお孫さんのところを訪ねてきたけれど、早く着きすぎて、電話も繋がらないのだとか。
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