冷たい上司の温め方
これって……一体なにが始まるの。
「失礼します」
楠さんに指定された部屋に入ると、彼は私とお揃いの服を着た年配の女性と話していた。
彼女はクマのぬいぐるみのような、大きく丸い体をしていて、“皆のお母さん”というような雰囲気だ。
「あのっ、これって……」
自分の着た作業服をチラッと見て問いかけると、口を開いたのは女性の方だった。
「まぁまぁ。あなたが麻田さんね。
入社前に会社の隅々まで知りたいなんて、勉強家ね」
「えっと……」
隅々までってどういうことだろう。
「私、遠藤です。
掃除グループのリーダーをしています。よろしくね」
「麻田です」
流されるまま挨拶をしてしまったけれど、やっぱりこの作業服は……人事の制服ではなさそうだ。