冷たい上司の温め方
私は慌てて隅に寄り、小さく頭を下げた。
社長室の前で掃除をしていた遠藤さんは、私と同じように、邪魔にならない様に壁に張り付いて頭を下げたけれど、横を通ったその客が重そうなカバンを彼女にぶつけてしまった。
「あっ……」
その様子を目撃して思わず声が出てしまった私は、ハッとして口を押さえる。
だけど、その人は遠藤さんのことを見ることすらなく、そのまま社長室に入っていった。
「大丈夫ですか?」
「うんうん。平気」
「ちょっと、あの人、謝りもしないで」
「ホント、気にしないで」
遠藤さんは、怒りをあらわにした私を制する。
「ちょっといらっしゃい」
遠藤さんは社長室の前から私を引っ張って、エレベーターホールまで戻った。