冷たい上司の温め方
「意外と気がつくんだ」
「は?」
聞こえないようにつぶやいたつもりだったのに、聞こえてしまったようだ。
地獄耳の銀縁メガネは、私をにらんだ。
「真面目にやってるから誉めてやろうと思ったけど、お前、やっぱりダメだ」
「ダメって、どういうことですか?」
「バイトの時もそうだ。理不尽なことには理不尽だと言えばいい」
バイトの時?
あの変なやつらに絡まれたときのことだ。
「ゴミを集めているから、避けてくれと言えばいい」
「でも……」
社会人って色々我慢しなくちゃいけないんだと思っていた私にとって、彼の発言は思いがけなくて、驚いてしまう。
「それもできないなら、お前に価値などない」
「いくらなんでも、それは失礼です」
『価値がない』なんて、失礼すぎる。
私だって、色々考えてるのに。
思いっきり楠さんをにらんでみたけど、彼は気に留めることもなく颯爽と歩いていってしまった。