冷たい上司の温め方
「麻田さん。楠君となに話してたの?」
私のところにやって来た遠藤さんが、首をかしげる。
「はぁ。なんか、理不尽なことは……」
「理不尽と言えって?」
「どうしてそれを?」
「あはは」と笑った遠藤さんは、「楠君らしいわね」なんて感心すらしている。
「遠藤さん、それってどういうことですか?」
「そうねぇ。あなたらしさを失うなってことじゃない?」
「私らしさ?」
余計にわからない。
「自分が正しいと信じたことは、他の誰がなんと言おうと貫けばいいってことよ。
さっきの私は失格ね」
さっきの?
社長室の前でカバンをぶつけられて我慢したこと?
確かに、あのおじさんが遠藤さんに謝るべきだったと思う。
でも、会社にとって大切な客と清掃社員という立場だと、やっぱり言えないのが普通だと思う。