冷たい上司の温め方

「真面目にやってるな」

「はい」


楠さんと話すのは、久しぶりだった。

彼は遠藤さんのところに行くと、なにやら言葉を交わして頷いている。
それは、ほんの数秒の出来事だった。


楠さんは人事に戻ると、すぐにもうひとりを伴って出てきた。


「楠さん。でもあの部長は実績が……」

「社員の働きやすい環境を提供するのが俺達の仕事だ。
捨てるものと拾うものを間違えてはならない」


私にはなんのことかさっぱりわからなかったけど、なんだか深刻そうな雰囲気だった。

あっという間にエレベーターに乗って行ってしまったふたりを見送ると、遠藤さんが近づいてきた。


「あの子が笹川君よ」

「そうなんですか?」


挨拶すらしなかった。
というか、紹介もしてもらえなかった……。

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