もしも透き通れば


 夕日が眩しい。

 目が開けられない。

 聴覚を全開にして、彼女の立てる足音に集中する。

 隣を見れないから、左手で彼女の手を握った。どこにあるかは知っている。一緒に歩いている時の彼女の手の場所はまだ、俺の体が覚えている。

 小さかったけど、握り返す力を感じた。

 それが口元を緩ませる。

 どこに行く?と前を向いたままで聞いたら、実は、と小さな声が聞こえた。

「・・・お腹、空いてたんだけど、今は胸がいっぱいで、とても食べられない」

 彼女の返事に笑う。その自分に気付いてハッとした。

 ―――――――俺、今、笑えた。

 確かに、どこでもいいなんて言葉は昔も聞いたことはなかった。何にでも正直な彼女らしい返事だ。

 俺はやっと隣を見る。

 斜め下から彼女が見上げる。

「・・・家に、帰る?」


 あの家に、帰る?



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