もしも透き通れば


 俺の言葉に小さく息を吸い込む音がした。手を握る力が強くなった。

 隣を見ると、彼女は泣き笑いだった。そして何度も頷いていた。

 そんな顔も初めて見た。


 ・・・なんだ。俺はぼんやりと考える。

 何だ、長いこと一緒に居たのにどうして別れなければならなかったのか、いつまでもわからなかった。だけど、何でも知ってると思っていた彼女の、見たことない表情だって、まだまだこんなにあるんじゃないか。

 夕焼けの紅色が目に染みる。

 その強烈で優しい赤からオレンジのグラデーションは、景色の全部を同じものとして溶かす。


 今度は何色になっても。

 隠されて見えない彼女の心が何色に染まっても。

 俺は、ちゃんと探るんだ。

 探って、抱きしめよう。


 もしも心が透き通れば、見ただけでわかるなら。

 楽だけど、面白くはないかもな。



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