もしも透き通れば


「それが終わって大変な結婚式を終えると、さあ、そこからは普通の日常生活が始まるわよね」

「うん」

「最初は同じ家に帰れることが嬉しかったし、あなたの苗字で自分が呼ばれることに興奮したし、指輪がキラキラ光るのも嬉しいの」

 俺は頷く。席をたって食器を流しに運んだ。その間も妻は話している。

「だけど半年もすればその状態にも慣れるでしょ?」

「・・・そうだな」

「すると」

 ため息をついて席にもたれかかった。フォークで卵料理をつついている。俺があれをやったなら、すぐに怒声が飛んでくるはずだ。行儀が悪いって。

「あとは日常生活なのよ。ご飯を作って、仕事に行き、掃除と洗濯を帰宅後にして、またご飯を作り、お風呂に入ると一日が終わる。両親の家を実家と呼ぶのに抵抗がなくなるし、新しい苗字にも感動しなくなり、指輪は家事の邪魔だから外したままになる」

「・・・」

「当たり前だけどメールや電話も減るし付き合っていた頃よりはエッチも減る。子供が出来たら、そのうち会話も減るんだと思うの。多分、話題が子供のことに限られちゃったりなんかして」

 俺はこっそりと欠伸をかみ殺した。彼女が話している間に欠伸なんてすれば、下手したら晩ご飯が消える。

「だから、結婚時がトキメキの恋愛の最高潮なんだとしたら、結婚したらあとは落ちていくばかりなんだなあ~、と思って」

 俺を見る。・・・多分、何かしらのコメントを待っているのだろうということは判る。

 だけど、これに一体何て言えって?


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