もしも透き通れば
俺は時計をもう一度見て、ゆっくりと答える。
「・・・何て言って欲しいんだ?」
すると妻は膨れた。もう!と口を尖らせてぷんぷんしている。
「どうして男の人ってこうなの?全然判ってくれないんだから!」
そしてガツガツと残りの朝食を平らげて、ぷりぷりしながら食器を片付け、出勤準備をしに洗面所へ行ってしまった。
俺は天井を見上げる。
・・・・・どうして女って、ああなんだ。何が何だかちっとも判らない。
鞄を持って玄関に行く。
玄関横の洗面所で、彼女が自分の顔と頭に魔法をかけている。それを横目で見ながら通り過ぎて、思いなおして鞄をたたきに置いて洗面所に入った。
鏡を見ながら化粧をしている彼女を後ろから抱きしめる。
すると、表情が柔らかくなるのを知っている。この時の彼女の笑顔は、例えば眉毛が片方しかかかれてなくても、とてもいい笑顔なんだ。だからしばしばこうやって抱きしめる。それは、付き合っている時はしなかったことだ。結婚したから出来る、朝の夫の特権。
「・・・行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね」
君もね、そう返してそっと離れ、玄関で靴を履く。駅までの道を歩きながら、ぼんやりと考えた。
どうしてあんなこと考えるんだろう。女って、わからない。最高潮から落ちる?そのまま持続だとは思えないのか?日常生活になる?それがいいんじゃないのか?
第一、毎日ドキドキなんてしてたら心臓がもたない。
ため息をついて、改札を通った。